舞台芸術評論家、プロデューサー、タレント。「STOMP」,「RENT」の日本公演に携わる。コメンテーターとしてテレビやラジオにも活動の場を拡大。トークショー「トシ・カプのブロードウェイ言いたい放題」は、内容の濃さと面白さで好評を博す。NYのジャーナリストや演劇評論家130名で構成されるドラマ・デスク賞の審査員を務めている。ワハハ本舗所属。
みなたまァー!
皆様には、過去に息が止まる様な痛ーい記憶ってなあい?
たとえば、家族のこととか?
愛して止まない親・姉弟も、同居しているとあまりに近過ぎて、
ついついお互いワガママ放題になってしまったり、礼儀を忘れたり・・・
あげくに自己嫌悪の罠にドーンと落ちてギャーッ!と・・・。
思い返すたびについ昨日の事の様に苦しくなって、
いやーな汗出ちゃうヨ、みたいな・・・。
今回は、アメリカを代表する劇作家、テネシー・ウイリアムズの出世作であり、
自伝的要素が色濃いと言われる追憶の物語「The Glass Menagerie(ガラスの動物園)」をご紹介しまーす!
このタイトル・・
登場人物のコレクションからきたもの
狭い居住空間に閉じ込められ、
反目しあう追憶に縛られた哀れな動物達の、
限りなくあやうい家族関係を象徴する秀逸なタイトルじゃあーりませんか!
それだけでも、テネシーってスゴーい!
主人公のトム青年がたどる彼の三人の小さな家族の「追憶」。
それは、彼にとってあまりに辛い
しかし、彼はそれを語らずにはおれない。
表面的にはありふれた家族
が、そこに潜む不幸のレシピ
まず、母、アマンダ
評判の美人でイケイケだった若い頃の栄光から、どーしても抜け出せない。
年老いた今の現実は、夫に逃げられ、
二人の子供は自分の期待にぜんぜん答えてくれない。
しかも、狭いボロアパートに冴えない娘と息子と閉じ込められている。
そのありえないギャップの大穴を埋めるべく、とにかくしゃべくりまくる!
そんな彼女の姿に周りはどん引する。
歳を重ねれば、自然に世界が狭まって行くのはトーゼンなのかぁ?
せめて自分は、いつまでも若く飛び跳ねていきたいねぇー!
欲望と執着。
これも度が過ぎると不幸の素なのだぜよー。
トムの姉さん、ローラ
病的なほどの引っ込み思案で足に障害をもってる。
自分のコルセットの音が教室にこだまするのが耐えられなくて学校を中退。
ガラス細工の動物達に癒されてというヲタクチックな性格。
コンプレックスに囚われた、行かず後家予備軍。
おまけに、お母さんからは何が何でも玉の輿のプレッシャー。
異性どころか他人とも、まともに口も利けないのにね。
主人公トム
母親と同様に姉の事をとても心配している
ウザい母親の事だって憎みきれる訳が無い。
作家になる野心を満たす為に家を出るのだが、
やはり家族を見捨てたという記憶が癒える事の無い傷口となって彼を苦しめる。
これは自立した人が家族に対して、
大なり小なりもっている負い目。
私の場合、特にあるかな・・汗
母親は、娘ローラをなんとか嫁がせたいと、
息子トムをせっ突いて、同僚のジム青年を自宅に招き寄せる。
このジム青年、フットボール選手のスターだった過去の栄光にスッキリかたをつけ(対アマンダ)
社交的にポジティブなエネルギーを振りまき(対ローラ)
野心などもたず、現実的な生活を目指す(対トム)
主役の三人とは全て対照的な性格。
この逆写しの鏡のようなジムの投入によって、
ぶつかり合う三人の自我の衝突が沸点に達してしまうのだ!
ここに描かれている、追憶の呪縛。
理想と現実のギャップ。
親離れ子離れ出来ない大人達。
住宅環境と経済状況の悪化でアメリカでも増えている成人親子の同居。
結婚出来ない若者達。
などなど、とーってもコンテンポラリーな題材を
ふんだんに凝り込んでいる内容は、
60年以上経っているに全く色褪せてない
やっぱり、テネシーってスゴーい!!
初演が終戦の1945年
今回で6回目の再演となる本作の見所は、
何と行っても主人公達の圧倒的な演技力!
トム役は、映画「スタートレック」の副長スポック役でおなじみ
ハリウッド俳優、ザカリー・ クイント。
前回紹介した「ロミオ&ジュリエット」でロミオを演じた
オーランド・プルームも期待以上、あっぱれだけれど
崩壊寸前の精神状態を目でも演技するクイントの演技力はそれ以上!
母親アマンダ役のチェリー・ジョーンズは
映画版で見た大大女優キャサリン・ヘプバーンもぶっ飛ぶ
絶妙な抑揚を効かせた大熱演!
演出を手掛けたのは、ミュージカル「ワンス」でトニー賞を受賞したジョン・ティファニー。
贅肉を削り取った簡素なステージ作りがお得意な彼は
本作でもアパートの外壁にある非常階段と
三人掛けのソファー、食卓のテーブルと椅子だけという、
見た目は低予算のオフ・ブロードウェイのような空間を演出。
ところが、ドッコイ
舞台はまるで海上に浮いている小島
ステージが水で囲まれているのさ!
その舞台装置がまさに
一般社会から孤立したウイングフィールド一家を囲む動物園の檻の様に、
無慈悲で理不尽な現状のなかで愛憎を繰り広げる家族模様を際立たせる!
まー役者にしたら、
舞台上に何もない分
役者の粗が見えやすく
力量も試される怖い演出法なのさ。
このやり切れなさに満ちているテネシー・ウイリアムズの傑作を、
至高の演技と研ぎすまされた演出で完成させた本作品。
皆様の心にもガッツリと響くハズ!
明るく楽しいミュージカルも良いけれど、
たまには現代社会の苦悩をえぐり出した問題作に接して、
皆さん自身の来し方行く末に思いを馳せるのはどうでしょう?
だって、食欲の秋と同時に自分を深ーく顧みれる秋でもあるわけですからねぇー。
公演は、来年1月5日まで。
ミュージカルって、ブロードウェイって楽しいだけでなく、
ほんっとうに役に立つ人生訓がギュっと詰まった 素晴らしいものなんですよね!
トシ・カプチーノ評:★★★★
Booth Theatre
222 West 45th Street
New York, NY 10036
ポチマさま、いつもコメントありがとうございます♡「ガラスの動物園」は今回の再演を観たことで、さらに作品のメッセージの大きさを再確認しました。また、こんな傑作をライブで目撃出来たことの幸せを実感しています。
またまた時間が過ぎてしまっていた〜
ミュージカル派の私ですが・・・こんなグッと来る内容のお芝居観てみたい!
年齢かなぁ〜 あ、カプチーノさんと大差ないと思いますから〜
NYも寒くなって来たのでしょうね〜 御自愛なさってねぇ〜