いわゆるウクライナ疑惑をめぐるトランプ大統領の弾劾調査で、議会下院の公聴会が行われています。疑惑は、トランプ氏が政敵である民主党・バイデン前副大統領の捜査をするようウクライナに圧力をかけ、このための交換条件として、ウクライナに向けた支援金4億ドルを利用したとするものです。公聴会ではこれにトランプ氏自身がどうか関わったかが焦点となっています。
<公聴会初日 11月13日(水):ビル・テーラー駐ウクライナ代理大使/ジョージ・ケント国務次官補代理>
初日に証言したのは、ビル・テーラー駐ウクライナ代理大使と、ジョージ・ケント国務次官補代理です。特にテーラー氏はこれまでも、「自分の理解では、トランプ政権側は4億ドルをバイデン氏捜査の交換条件として使う意図があった」と話していました。公聴会でテーラー氏は新たに、自分の部下から聞いた話として、トランプ氏がウクライナの動きを探っていたとも明かされました。それによりますと、トランプ氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談の翌日に当たる7月26日、自身と近い関係にあるゴードン・ソンドランド駐EU大使と電話をしていて、その中で「捜査の様子はどうだ」と気にする様子を見せていました。一方、共和党は、「ケント氏の話も含め、2人の情報は自分が直接ではなく、誰かから聞いたのを又聞きしたものに過ぎない」と信ぴょう性を疑問視しています。
<公聴会2日目 11月15日(金):マリー・ヨバノビッチ前駐ウクライナ大使>
ヨバノビッチ前駐ウクライナ大使は外交で33年のキャリアを持つベテランでしたが、5月に突然解任されました。この背景には、トランプ氏の顧問弁護士、ルディ・ジュリアーニ氏が、ヨバノビッチ氏をウクライナ関係の足かせとみなして中傷を繰り返していたことがあると言われています。公聴会でヨバノビッチ氏は、「7月のトランプ氏とウクライナの大統領と電話会談で自分を貶める内容が話されていたのを、のちに通話記録が公表されてから知った」と話し、そのときの心境を、「ショックだった。周りの人ですら、私の顔から血の気が引いていくのがはっきりわかったと言っていた」と語りました。屈辱的な経験にもかかわらず公聴会で証言したヨバノビッチ氏の姿勢は、一部共和党議員からも称賛されましたが、一方で、ヨバノビッチ氏は、疑惑の鍵になる7月の電話会談や、支援金の4億ドルの話が浮上する以前に職を解かれていることから、弾劾調査の証言としては意味をなさないとも指摘されました。
<公聴会3日目 11月19日(火):NSC・米国家安全保障会議職員 アレクサンダー・ビンドマン陸軍中佐/NSC ジェニファー・ウィリアムズ副大統領外交顧問/カート・ボルカー元ウクライナ特別代表/NSC ティム・モリソン欧州ロシア担当顧問>
共にNSC職員でもある、ビンドマン陸軍中佐と、ペンス副大統領の外交顧問、ウィリアムズ氏は、実際に7月の電話首脳会談に立ち会っていて、2人とも「会談の内容を不適切と感じた」と述べています。ウィリアムズ氏は、「なぜ国内政治の話をこの場でするのかと思った」などと、外国の首脳に内政の相談をすることを不審に感じたと証言。ビンドマン氏はさらに、「自分で聞いたことが信じられなかった。自国の政治家であり、同じ国民であるバイデン氏の捜査を外国に頼むなど、極めて不適切だ」と述べ、この懸念をすぐに上司に伝えたと話しています。旧ソビエトから両親に連れられ3歳の時にアメリカに移住したビンドマン氏は、公聴会の席で「アメリカへの移住を決めた父の決断は正しかった。アメリカの軍人として、父の故郷では成し得なかった誠実な証言を行う自分の姿を、父に見ていてほしい」と述べる場面もありました。
この日の後半は、共和党から要望があったボルカー元ウクライナ特別代表とモリソン欧州ロシア担当顧問が出席し、「トランプ政権が捜査をウクライナに依頼していることは把握していたが、その捜査がバイデン氏に関するものという認識はなかった」と証言しました。
<公聴会4日目 11月20日(水):ゴードン・ソンドランド駐EU大使>
ソンドランド駐EU大使をめぐっては、当初「交換条件などない」と非公開で証言したのち、他の人物の証言などから交換条件があった疑いが色濃くなるに連れ、「交換条件があったことを思い出した」と、証言を覆した経緯があります。ソンドランド氏は、かつてのトランプ氏の献金者でもあるほどトランプ氏に近く、直接指示を受ける立場だけに、全証言者の中で最も注目されていました。公聴会では、トランプ氏の指示を実際に周囲に伝えていたのはジュリアーニ氏であることを繰り返し口にした上で、「交換条件があったか? ホワイトハウスで会合したいというウクライナ側の要望に対しては、(バイデン氏の捜査を引き合いに)交換条件を提示した事実があるかと言えば、答えは『イエス』だ」と述べました。