トランプ大統領が、シリアに駐留するアメリカ軍の撤退を命じたのをきっかけに、現地部隊と対立するトルコ軍がシリアへの侵攻を開始。現地の情勢が急激に悪化しています。
シリアに駐留するアメリカ軍部隊は今月6日、トランプ大統領からの撤退の指示を受け、現地からの撤収に向けて動き始めました。シリア北部を支配する少数民族、クルド人勢力は、現地の駐留米軍にとって、過激派組織ISISの掃討作戦を共に進めてきたパートナーです。しかしシリア北部と国境を接するトルコの政府は、クルド人勢力をテロ組織とみなし、両者は長年対立しています。そうした中でアメリカ軍が撤退すれば、クルド人勢力は後ろ盾を失う形となり、トルコ軍はもちろん、他の過激派組織の侵攻を許し、急激な治安の悪化を招くことが予想され、アメリカ議会の与野党はトランプ氏の判断を「無責任だ」と強く非難しました。
懸念はすぐに現実のものとなり、アメリカ軍撤退の発表から3日後の今月9日、トルコ軍はシリアへの侵攻を開始しました。シリア北部では、空爆や、町中での銃撃と爆撃による被害が民間人にも及び、この1週間にクルド人の間で数百人規模の犠牲者が出たほか、13万人が避難を余儀なくされたとも言われています。現地で取材をしたABC記者は「クルド人勢力の幹部は『アメリカはなぜ同士である我々を裏切ったのか』と何度も訴え『アメリカを信じる人は中東に誰一人いなくなった』と話していた」と伝えています。
さらに、1万人を超えるISISの戦闘員が収容されていると言われるシリア北部の刑務所では、トルコ軍の侵攻以来、警備が手薄になったことで、少なくとも5人の受刑者が脱走したとも伝えられています。日に日に悪化するシリアの現状を受け、トランプ政権は、アメリカ軍撤退の判断は覆さないとしながらも、14日、トルコ政府に対し、一部品目の関税を50パーセントに引き上げるなどの厳しい経済制裁を科すことを発表しました。トランプ政権は、「トルコ軍がシリアへの侵攻をやめなければ、制裁はさらに強化する。トルコの経済を壊滅的な状況に追い込んだとしてもだ」と、攻撃を直ちにやめるよう強く求めました。
しかしトルコが攻勢を弱める気配はなく、シリア北部では、アメリカ軍の治安活動が期待できなくなった今、これまで対立していたクルド人勢力とシリアのアサド政権とが異例の協力体制をとって、トルコ軍に対抗する事態となっています。また、アサド政権の後ろ盾となるロシア軍も現在シリアに入りトルコとシリアの仲介に当たっていますが、現地では当面混乱が続くと見られます。